介護現場のカスタマーハラスメント—職員の安全と、必要な介護をどう両立するか
介護の現場では、ご利用者さまやご家族さまとの信頼関係が、より良い支援の土台になります。一方で、暴言や威圧的な言動、過度な要求、暴力、セクシュアルハラスメントなどにより、職員が心身の安全を脅かされるケースもあります。
厚生労働省は2026年8月28日、社会保障審議会・介護給付費分科会において、介護現場のハラスメント対策を議題にしました。検討事項の一つとなったのが、カスタマーハラスメントが起きた場合に、介護事業所がサービス提供を断ることのできる「正当な理由」を、より分かりやすくする必要があるかという点です。
現行制度で判断が難しい「正当な理由」
訪問介護や居宅介護支援などの事業者には、正当な理由なくサービス提供を拒んではならないというルールがあります。介護を必要とする方の生活を守るために、欠かすことのできない原則です。
しかし、職員への暴力や著しい迷惑行為が繰り返された場合、どこまでがサービスを断る「正当な理由」に当たるのか、現場では判断が難しいことがあります。曖昧なままでは、職員が被害を受けても「介護職だから我慢しなければならない」と抱え込んでしまうおそれがあります。
厚生労働省の資料では、介護従事者がハラスメントを受けることなく安心して働ける環境を整える重要性が示されています。今後は、ご利用者さまに必要な支援を継続することにも配慮しながら、事業所が状況に応じて適切に対応できる仕組みが検討されます。
認知症に伴う言動とカスハラは、慎重に見分ける必要がある
介護分野のカスハラ対策で特に難しいのは、認知症の症状や疾患の影響による言動と、社会通念上許容される範囲を超えた要求・迷惑行為を、同じものとして扱うことができない点です。
強い口調や拒否的な反応があったとしても、その背景に不安、痛み、環境の変化、意思をうまく伝えられない苦しさが隠れていることがあります。表面的な言動だけで判断せず、まず原因を探り、ケアの方法や環境を見直す姿勢が必要です。
その一方で、病気や障害があることを理由に、職員への暴力や人格を傷つける行為を無条件に受け入れ続けることも適切ではありません。ご本人の状態や行為の背景、危険性、繰り返しの有無、事業所が行った対応などを整理し、個別に判断することが重要です。
「すぐに拒否する」でも「職員に我慢させる」でもない
OTOKAは、介護サービスの提供拒否を安易に広げることが解決だとは考えていません。同時に、職員の安全や尊厳を犠牲にしてサービスを続けることも、持続可能な介護とはいえません。
大切なのは、問題を一人の職員に背負わせず、組織として対応することです。
- 起きた出来事を客観的に記録する
- 管理者や責任者へ速やかに共有する
- ご本人の心身状態や言動の背景を確認する
- ご家族さま、ケアマネジャー、主治医などと連携する
- 対応方法やサービス提供体制を見直す
- 危険が切迫している場合は、職員の安全確保を最優先する
- 継続が難しい場合は、関係機関と代替支援を検討する
サービスの制限や終了を検討せざるを得ない場合も、「断って終わり」にするのではなく、その後の生活や支援が途切れないよう、可能な範囲で関係者と調整する視点が欠かせません。
職員を守ることは、介護の質を守ること
介護は、人と人との関わりによって成り立つ仕事です。職員が安心して働けない環境では、丁寧で継続的な支援を提供することも難しくなります。
職員を守ることと、ご利用者さまを大切にすることは、対立するものではありません。双方の尊厳と安全を守り、困ったときに対話と連携によって解決を目指せる環境をつくることが、より良い介護につながります。
OTOKAは「自分の親なら、どうするか」を判断の基準に、ご利用者さま・ご家族さま・職員の誰か一方に負担を押しつけるのではなく、互いを尊重できる介護現場を目指してまいります。
※本記事は2026年9月4日時点の厚生労働省資料をもとに作成しています。制度の詳細は今後の審議により変更される可能性があります。
参考資料
- 厚生労働省「第263回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」
- 介護ニュースJoint「カスハラで介護サービス拒否、ルール明確化が俎上に」


