最低賃金1,177円へ—介護職の賃上げを事業所の努力だけで終わらせないために
2026年度の最低賃金について、全国47都道府県の答申が出そろいました。
厚生労働省の発表によると、全国加重平均は前年度から56円引き上げられ、時給1,177円となる見込みです。引き上げ額は、1978年度に現在の目安制度が始まって以来、過去2番目の大きさとなりました。
私たち株式会社OTOKAが事業を行う神奈川県では、現在の1,225円から54円上がり、時給1,279円となる予定です。発効予定日は2026年10月1日とされています。
働く方の収入が増え、生活が少しでも安定することは、とても大切です。介護の仕事に携わる方々の待遇を良くしていくことにも、もちろん賛成です。
一方で、介護事業所を運営する立場から見ると、今回の引き上げは、介護サービスを将来にわたって守るための大きな課題も浮き彫りにしています。
介護事業所は自由に価格を変えられない
一般的な企業であれば、原材料費や人件費が上がった際に、商品やサービスの価格を見直すという選択肢があります。
しかし、介護サービスの多くは、国が定める介護報酬によって収入が決まります。人件費や光熱費、食材費、車両費などが上昇しても、事業所の判断だけで利用料金を引き上げることはできません。
最低賃金が上がれば、最低賃金に近い職員の給与だけを調整すればよい、という単純な話でもありません。
経験や資格、役割に応じて給与差を設けている職場では、そのバランスも見直す必要があります。新人職員の給与だけが上がり、長年働いてきた職員や責任ある役割を担う職員との給与差が縮まれば、働く方の納得感を損なう可能性があるからです。
つまり最低賃金の引き上げは、介護事業所にとって、職員全体の賃金体系を考え直すきっかけになります。
賃上げとサービスの継続はどちらも欠かせない
介護は、人の力によって成り立つ仕事です。
ご利用者さまの表情や体調の小さな変化に気づくこと。ご本人が言葉にできない思いをくみ取ること。ご家族さまの不安に耳を傾けること。安全に配慮しながら、その方らしい暮らしを支えること。
こうした仕事を担う職員が、安心して長く働ける待遇を整えることは、介護サービスの質を守ることそのものです。
同時に、事業所の経営が立ち行かなくなれば、地域に必要な介護サービスを継続できません。そこで働く職員の雇用も、ご利用者さまの生活も守れなくなります。
「職員の給与を上げること」と「事業所の経営を安定させること」は、対立するものではありません。どちらも実現して初めて、持続可能な介護になります。
介護事業所の工夫だけでは限界がある
もちろん、事業者自身の努力は必要です。
業務の見直しやデジタル化、職員配置の工夫、稼働率の改善など、限られた財源をより有効に使うためにできることはあります。OTOKAでも、現場の負担を減らしながら、ご利用者さまと向き合う時間を増やすための改善を続けています。
しかし、効率化には限界があります。
介護は、人と人が直接関わることに大きな価値がある仕事です。効率だけを求めて人員を減らし続ければ、職員の負担が増え、ご利用者さまと丁寧に関わる時間が失われかねません。
賃金や物価が毎年上がる一方で、介護報酬がその変化に十分対応できなければ、個々の事業所の努力だけでは吸収できなくなります。介護職の継続的な賃上げを実現するには、処遇改善加算に加え、基本報酬を含めた安定的な財源の確保が必要だと考えます。
加算だけでなく、わかりやすく安定した仕組みを
介護職員の処遇改善を支える制度として、処遇改善加算があります。職員の待遇を改善するうえで重要な制度ですが、申請や実績報告などの事務作業が必要で、事業者側には一定の負担もあります。
また、加算の対象や配分方法によっては、同じ事業所で一緒に働く職員の間に差が生じることもあります。
介護の現場を支えているのは、介護職員だけではありません。看護職員、機能訓練指導員、生活相談員、送迎職員、事務職員など、多くの人が連携しています。
制度を考える際には、職種間の分断を生まないこと、事務負担を必要以上に増やさないこと、そして事業所が将来を見通して賃金改善に取り組めることが重要です。
基本報酬の引き上げを含め、よりシンプルで安定した支援のあり方について、現場の実情を踏まえた議論を期待しています。
OTOKAが大切にしたいこと
OTOKAには、「自分の親なら、どうするか」という大切な判断基準があります。
自分の親を支えてくれる職員には、誇りを持ち、安心して働き続けてほしい。
自分の親が通う場所には、無理のない経営のもとで、良いサービスを長く続けてほしい。
だからこそ私たちは、職員の待遇改善と健全な事業運営の両方から目をそらさず、できる改善を積み重ねていきます。
最低賃金の引き上げを、単に事業所の負担が増える話として終わらせるのではなく、介護の仕事の価値と、それを支える仕組みを社会全体で考えるきっかけにすることが大切です。
介護を必要とする方も、支える職員も、事業所も、安心して明日を迎えられる地域へ。
株式会社OTOKAは、これからも現場に向き合い、持続可能な介護のあり方を考え続けてまいります。
参考資料
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」
- 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
- 介護ニュースJoint「最低賃金1177円 過去2番目の引き上げ 介護経営の圧迫懸念 業界は報酬増を要請」
※記載内容は2026年9月11日時点の公表資料に基づきます。各都道府県の改定額・発効日は、異議申出の状況などにより変更される場合があります。


